usajii357’s diary

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延々操くり~クルリウタを聞いて~

 今回は最近発売されました「クルリウタ」のお話をしたいと思います。この文にはクルリウタやそのボイスドラマ「誰ソ彼ノ淵」のネタバレを含みます。また、クルリウタという作品そのものが人によっては(というかある程度の数の方にとっては)苦手な表現にあふれています。そこら辺自己責任でお願いいたします。

 

・クルリウタとは

 クルリウタとはTHE IDOLM@STER THE@TER CHALLENGE 03に収録された曲並びにCDの事を言います。このTCシリーズと呼ばれるCDシリーズは「映画に出るアイドルを決めよう」というコンセプトの基、ゲーム「ミリシタ」内で行われるプレイヤーの投票によって担当アイドルとその役が決まり、その配役に沿ってミリシタ内でのイベント展開、ガチャ展開、曲作成、ボイスドラマ作成、CD発売といったお祭り騒ぎが起きるシリーズです。他ブランドでいうとsideMのDOSが近いでしょうか。

 このTCシリーズ、曲が良いのは言うまでもありませんがボイスドラマも外せない要素です。今回話題にしたクルリウタでは「誰ソ彼ノ淵」という名前で60分近くのボイスドラマが収録されています。映像化出来てしまうのでは?と思えてしまうほどのボリュームと作り込みです。

 このTCシリーズには前身となるシリーズがありまして、TAシリーズ、TBシリーズがそれに当たります。これらもTCと同じように映画の配役をプレイヤーが決定した上で展開されてきました。その内容はなかなかに攻めた物が多く、超バレーボールや勇者物、任侠物に推理サスペンスと多種多様。実際に映画化したら年齢制限が付きそうだな…?とすら思えるものもあります。「劇場」というコンセプトを持つミリオンがそのコンセプトをお芝居という形で全面に、そして挑戦的に強調してくる場なのかな、と私は捉えています。

 そんな中でもクルリウタは特に尖っています。とある通販サイトで「やりすぎ」という評価を目にしましたが、その感想に反論する事が出来ないほどの攻めようでした。

 そもそも投票企画の説明文やミリシタのイベントストーリー、カードなどから私が推測していた物語は次のようなものでした。ここからはアイドル本人と劇中の役名が同じということで混乱しやすいため、役名をカタカナで示すことにします。エレナはエレナ(役)の形で示します。

・カオリ先生とリツコ先生、生徒としてアカネとエレナ(役)が船に乗っている。

・なんやかんやあって船が沈んで島に漂流する。

・島には不気味な洋館だけがある。

・洋館には主人のチヅル、娘のイオリ、使用人のシホが住んでいる。

・チヅルに4人は助けられて良い待遇を受ける。

・シホがチヅルの命令で4人を次々と始末する。リツコが一番に始末され、それに気付いて逃げ出した残りの3人も追いかけてきたシホの手にかかる。

・4人はなにかの生贄にされる。多分イオリかチヅルの配偶者絡み。復活の儀式的なものを想定。

 愛するものを取り戻す為に狂気に手を染めてしまった主人と従者、みたいなものを想定していました。悪役となるチヅルとシホにも同情の余地を与えるような、まだのほほんとしたようなストーリーなのだろうと思っていました。のほほんってなんだよ。しかし、ボイスドラマはそんな幻想をぶち壊していきました。

・ぐさぁした挙げ句、食べた。さらに定期的に食べている模様。

・イオリはチヅルの娘では無かった上にぐさぁされた。

・シホもチヅルに恐怖をちらつかされていた。

・アカネだけがイオリのように生き延びてしまった。

 「食べた」て。「食べた」ておま、全体的に攻めすぎだろ…好き。というのが第一印象でした。「何を」というのは実際に聞いたり、察したりしてください。一貫してぼかすことにします。

 このような衝撃的な内容に目を奪われがちですが、ストーリーそのものも考察しがいのありそうな大変興味深いものとなっています。それについてここから見てみようと思います。

 

・アカネの謎

 まずは主人公であるアカネです。何が謎かといいますと、今回の犠牲者4人の中で唯一生き残っている描写があった事です。勿論生き残るといってもチヅルの元でイオリと同じような立ち位置で監禁されているとでもいうべき状態でしたが……。最終盤の語りから考えるに他の3人は死亡、アカネもシホに刺されたと見られます。では何故アカネだけ命を救われたのか。これを考えるにはイオリについて考える必要がありましょう。

 チヅルの娘という紹介をされていたイオリですが、内容から考えて娘ではないと見るのが妥当でしょう。そのプロローグを聞くに、アカネと同じような道を歩んできたと思われます。即ち何らかの理由で乗っていた船が沈んでチヅルの館で監禁されていたということです。提供されている食事を食べようとしない描写から、その食事にシホが仕留めてきた獲物()が含まれている事を理解していたのだと思われます。何なら一緒に助かった仲間を…という可能性も考えられるでしょう。せめてもの罪滅ぼしと、犠牲になった遭難者の墓として十字架をチヅルに隠れて立てていたのだと思われます。やってきた4人とまともに接しないようにしていたのも「次はこの4人を…」という思いがあったからなのではないでしょうか。

 そうなるとイオリが「処理」された理由を考えないといけません。ここからは完全に推測ですがそもそもイオリを監禁していたのは「処理」するためだったのでは、と考えています。理由としては同じく監禁されたアカネの描写です。遭難した4人の内、アカネだけがあまり食事をせず、心が沈んでいたという描写がありました。一方他の3人は食事もしっかりとしており、エレナ(役)に関してはこの非常事態を楽しもうとしている描写すらありました。ここから、弱っていたアカネを育ててから、言い方を変えればある程度「飼育」を試みてから「処理」しようとしていたとは考えられないでしょうか。ちょうど庭先で野菜を育てるような感覚なのでしょうか、「飼育」を楽しみ、楽しかったら「飼育」期間を伸ばす、といった愛玩目的を含んでいた可能性もあります。飽きが来た時や自らの感情を害するような時には「処理」するつもりで。

 まとめますと、アカネもイオリも遭難者として島にたどり着き、「飼育」されてから「処理」されていく運命にあったという事です。まさしく「生き地獄」というやつです。生かされているよりもいっそ死んだ方が、という思いは「響く悲鳴は 嘆きの始まり それとも祝福か」という歌詞から伺えるのではないでしょうか。また、「延々操るり」という歌詞からは「処理」と「飼育」を繰り返すという意図を感じられるように思います。

 もう一つ考えられる説として、実際に「娘」として可愛がろうとしていたというものがあります。チヅルは何かしらの理由で娘を失っており、その影を遭難者から求めていたという説です。そしてイオリよりもアカネの方が求めていた娘像に近かったが為にイオリは用済みとなり、食料として「処理」されたという事です。娘を失った悲しみで狂気に染まった悲しき母、という路線は可能性として有り得そうです。ただ、劇中で一切精神的動揺を見せないチヅルの姿を考えるとチヅルは本物のサイコパス、即ち自らの行為を倫理的に間違っている行為だと認識していないのでは?とも思えます。そう考えると何かしら理由があって狂ってしまった、というよりも元から素で行動している、と考える方が適切なのかもしれません。

 どちらにせよ、イオリが何かしらの理由によって愛玩や娘の立場から「処理」対象になった事は間違い有りません。そのトリガーとなったのは十字架の件であろうと思われます。自らの与えた食料を追悼対象としていた事がチヅルの逆鱗に触れたのだろうか、と推測していますがよくわからないというのが本音です。

 

・シホの謎

 私の担当である志保さんはシホというチヅルに仕えるメイドを演じました。その感情を失ったかのような演技は素晴らしく、担当声優である雨宮さんの凄みを改めて感じるものでした。と、まあ担当アイドルと担当声優さんを褒めるのはこのくらいにして……このシホというキャラクターにもなかなかに謎が秘められていますので見ていきたいと思います。

 やはり最大の謎は何故島にいるのか?という点です。何故チヅルのもとで生き延び、その仕事を補佐するような立ち位置にいるのでしょうか?これを考える上でヒントになりそうな描写がありました。終盤のアカネ達を追跡するシーンでシホが「ちゃんとやらないと怒られる」という旨の発言をした事です。これより、シホはチヅルに進んで従っているというよりも仕方無しに従っていると見ることができそうです。チヅル側というよりもある意味「飼育」されているイオリやアカネ側に近いのかもしれません。

 ここで考慮しないといけないのが眼帯です。SSRとしてゲーム内に登場した際、この眼帯メイドという姿は多くのP達を騒がせました。多分ですが隻眼という設定なのでしょう。では何故シホは眼帯をすることになったのでしょうか。理由として以下のような物が考えられます。

・生まれつき。生まれつき片目が、という説。無難ではありますがミリシタがそんな意味のない設定を持ってくるとは思えないので却下。

・事故で。物語との親和性を考えるに、島で事故に遭ったと考えるのが妥当でしょう。ではその事故とは何なのか。これはチヅルから逃げる際に起きたのではないでしょうか。つまりシホも一度は「処理」される立場にあったとする説です。

・チヅルに奪われた。服従する事への証明、またはシホが犯した過ちに対する罰として奪われたという説。特に後者であるとするとシホがチヅルの罰を怖がっている事にも辻褄が合います。

 私個人としては一番下の説を押したいと思います。即ち、シホもイオリやアカネのように遭難した上でチヅルに救われた。その中で「処理」されかけたがチヅルの命に従う事で一命を取り留めた。片目はその中でミスをした時に罰としてチヅルによって奪われた、という内容です。生きるために倫理観や自らの意思といった道理を押し殺し、生きたいという真心を優先して淡々と生を繋ぐ姿は「『違う』 惑う 本音は消えた」と歌う彼女に合っているように思います。シホは加害者にして最大の犠牲者なのではないでしょうか。

 余談ですが、この本音を押し殺して暮らすシホというキャラクターはどこか志保さんに通じるところがあるように思えます。志保さんもまた幼少期に欲しかった絵本を母の事を思って我慢したというエピソードがあるなど、自分を押し殺しがちな人だからです。こう考えるとシホという役を志保さんに当てるのは上手くやってきたな、と感服するばかりです。投票した多くのPが小学生メイド沢を想起して投票していたような雰囲気がありましたが、まさかミリシタ側がこんな役で答えてくるとは……という戸惑いと喜びを感じます。良い役貰ったね、志保さん。でも14歳の貴方がやる役じゃないと思うよ。

 

イザナギイザナミ伝説

 ここまで色々と考えを巡らせる内に、とある一つのお話を思い出しました。そう、日本の神話に登場する夫婦、イザナギイザナミのお話です。神を生む存在であったイザナギイザナミですが、ある神を産み落とした時にイザナミは命を落としてしまいます。イザナミに会いたい、と嘆くイザナギは死者の国である黄泉の国に妻を迎えに行くのです。そこでイザナミは「黄泉の国の食べ物を食べてしまったから戻れない」と断ります。現世ではない世界の食べ物を食べた時、現世には戻れないという理屈は「孤島の食べ物を食べたから島の外には戻れない」というクルリウタの世界観に合致するように思えます。実際「映画に出てくるような」と形容された孤島の料理を食べた5人は島の外に出ることは出来ませんでした。「蝶」という、世界的に死や死者の魂といった要素と結び付けられがちなものを模った装飾が千鶴と志保さんのSSR衣装に含まれているのはチヅルとシホがこの世ならざるもの=孤島の住人となってしまっている事の暗示なのだと捉えれば、この見方はあながち見当外れではなさそうです。

 志保さんのSSRのアナザー衣装がどこか和風だったり、「誰ソ彼ノ淵」という和風なドラマ名がついていたりとどこか「日本」を感じさせる要素があるのは、イザナギイザナミ伝説が裏にあるからなのかもしれない、とも考えられましょう。

 

・まとめ

 これ以外にも謎は沢山あります。洋館の謎ですとか、集落ってなんだ?ですとか、劇中で言及のあった家畜小屋って何?ですとか……しかし妄想の域を出ない仮説しか出てこなかったのでここでは書かない事にします。色々な仮説考察がこれからどんどん出てくる作品だと思いますのでそれを楽しみにしていたいな、と思います。

 作品として見た時、全体的にとても良い作品である事は言うまでもありません。曲もそうですが、ボイスドラマの作り込みは凄まじい。キャストであるアイドル一人一人の良さを引き出す、という面でも我々Pは良い仕事をしたといえるようなキャスティングだったと思います。これを2000円以下で買えるのですから本当に良い時代です。じゃあ全員にオススメ出来るか、と言われると「それは無い」と言うしかないタイプの作品であることもまた事実でした。万人受けするタイプでは決して無い。ミリオンひいてはアイドルマスターがアイドルコンテンツである以上、この内容を、それもアイドルと同じ名前を使って展開するというのはかなりの挑戦でしょう。個人的にはそのような挑戦の場に志保さんが選ばれた事は嬉しかったりしますが……兎にも角にも賛否両論な一枚になっている事は否定出来ません。というか賛否両論であってくれ。

 その描写を考えると苦手な方にとってはトコトンダメな作品でしょう。劇中で起こっている事は余りにも刺激が強かった。特に後半の部分、リツコの下りやシホの「処理」の下りを鮮明に描写した事には流石に驚きました。R15ぐらいにしても問題なさそうです。また、本当に救いがない。地獄が延々と続いていくという終わり方も、後味の悪さを感じさせるかもしれません。よって、苦手な方は避ける事を本気で提案します。とりあえずクルリウタだけダウンロード、で良いと思います。CDを買ったとしてもボイスドラマを聞くのはやめておいた方がいいと思います。私も担当の出ているCDではありますが積極的にオススメすることは避けようと思っています。住み分けすべきかな、決して押し付けるべきではないな、という思いが強いです。ライブでやる時は朗読劇などをせずに歌だけで終わって欲しいな、とすら思っていたりします。担当が出ているCDのせいで嫌な思いをする方が出てしまう事は悲しい事ですので……

 ただ曲やボイスドラマは確実に良いものですので覚悟が決まった方だけ聞いてほしいな、そして感想や考察をこっそりと、苦手な方が避けられるような形でぶつけてほしいな、と思っています。考察しがいのある内容ですので、アイマス学会のようなオープンな場ではなく個人単位での場で色々な考えを交換しあいたいな、と思っています。われこそは、という方は是非とも考察を教えて下さい。

 

P.S ボイスドラマを聞いた後に聞くDIAMOND DAYSが一番怖かったです……後志保さん、りっくんに見せるのはやめた方が……